MRで良く利用される脂肪抑制について、まとめました。
追記や更新することもあると思いますが、参考にして下さい。
まずは脂肪の特性は、次のような感じです。
- T1値が短い
- 画像コントラストに与える影響が強い T1W high、T2W ややhigh
- 脂肪の共鳴周波数は水の共鳴周波数より3,5ppm低い
脂肪抑制法
脂肪を抑制するためには、以下の手法があります。
- T1緩和を利用する手法 STIR法
- 共鳴周波数差を利用する手法 CHESS法、DIXON法、DE pulse法
- T1緩和と共鳴周波数の差を併用 Spec IR法
ここでは国家試験でよく出る、STIR、CHESS法、DIXON法について書きたいと思います。
STIR法
- IR法でT1緩和を利用した、脂肪抑制法です。
- 180°のIRパルスを印加後、脂肪のT1回復がnull pointに来たら、RFパルスを印加します。
- RFパルスの前にIRパルスを印加するため、撮像時間が延長します。
IR法は、Inversion Recoveryのことで反転回復を意味します。
- RFパルスの前に、IRパルスと呼ばれる180°パルスを印加します。
そうするとプロトンの磁場が、ゼロからではなく、マイナスから始まるイメージになります。
- そして目的とする組織のT1回復がnull pointのところで、シーケンスを開始します。
このようにT1回復を利用して、目的とする組織の信号を抑制する方法をIR法といいます。

T1回復が、null pointになる時間をTI(Inversion Time:反転時間)と言います。STIRの時は、TI=140msが目安となります。
- STIRは、脂肪と同等のT1回復する組織の信号も同時に抑制されます。このことからSTIRは脂肪だけを抑制するのではないので、非選択的組織抑制と言われます。
- 磁場の不均一性に弱い部位での脂肪抑制に有用です。現場では頚椎、胸椎、肩関節などに主に利用されます。
- CHESS法に比べてSNRが低いです。そのため、CHESS法と同等のSNRを得ようとすると、撮像時間が長くなります。
- 造影剤使用後でT1短縮効果を観察したい時は、造影された部位も抑制される恐れがあります。そのため一般的に、造影剤投与後の脂肪抑制には用いられません。
CHESS法
- 脂肪と水の共鳴周波数の差(ケミカルシフト)を利用した、周波数選択性の脂肪抑制法です。
- 1,5Tでの共鳴周波数の差 64MHz×3,5ppm=224MHz
- RFパルスの前に、脂肪を選択的に抑制する前飽和パルス(presaturation pulse)を印加します。
前飽和パルス(presaturation pulse)は、パルスシーケンスの前に印加して、縦磁化のない状態にするパルスのことを言います。
- 空間的に特定部位を飽和するspatial SAT
脊椎撮影時に、椎体の前方などに置くあれです。
- 特定組織を周波数選択的に飽和するchemical SAT
縦磁化のみでなく、傾斜磁場を印加して、横磁化成分もない状態にしています。
- IR法と同様、RFパルスの前に前飽和パルスを印加するため、撮像時間が延長します。
- 磁場の不均一性に弱い部位では不向きで、脂肪が抑制されにくいことがあります。
- STIR法に比べてSNRが高いです。
- 選択的に脂肪を抑制するので、造影剤使用後の脂肪抑制T1強調画像で一般的に利用されます。
DIXON法
- 脂肪と水の共鳴周波数に差があるため、位相差を生じます。
- あるタイミングでは位相が揃い、あるタイミングでは正反対となることがあります。
- この位相が揃う・揃わないは、グラディエントエコー法のTEで変わってきます。
- 位相が揃う時をin phase、位相が正反対になる時をout of phaseやopposed phaseと言います。
- この位相差を利用して、各画像を取得し演算することで脂肪を抑制する方法です。
- ちなみにこの位相のズレ(in phase、out of phase)となるTEの値は、静磁場強度で異なってきます。
- 腹部の撮像で良く使われる印象です。
- 脂肪が混在している部位や臓器の辺縁などは、out of phaseで低信号の帯(脂肪の位相がずれて見えているイメージです)のような感じで見えます。
- 臨床では、腫瘍などに脂肪成分が混在しているかなどの評価を行います。

