最近CTをよく担当する、カワシマです。
その中で、胸部は比較的多く行う検査です。CTが得意とする高コントラスト・高空間分解能が活かしやすいからです。
健診で指摘されて精査を行う場合や、咳が出るなど症状がある場合に検査を行うことが多いです。そんな時、良く見かけるのがスリガラス影です。
ここでは胸部のCT撮影とスリガラス影について書きたいと思います。
Contents
胸部CTで注意すること
胸部の撮影では、呼吸や心臓の拍動の影響を受けやすいです。
そのため呼吸は最大吸気が基本です。吸気が不十分だと、荷重部つまり背中側に高吸収の陰影が見られることもあります。
また心拍動の影響を最小限にするために、スキャン時間・X線管球の回転時間を短くすることも大切になります。
検査が終わると、画像の確認になります。胸部撮影は、肺野条件と縦隔条件を観察するのが基本となります。この2つは、観察する目的が異なるため、使用する関数やウィンドウ値が異なります。
撮影時間 15秒以下が推奨されています。
回転時間 0.5sec/rot程度が推奨されています。
スライス厚 5mmが推奨されています。
肺野 WW:1500~1600、WL:‐500~‐600
縦隔 WW:300~400、WL:20~40
その他、詳細なパラメータは割愛します。
スリガラス陰影
画像の再構成で、スライス厚が5mmを推奨している理由があります。
肺野条件に限って言ってしまいますが、それは淡い(濃度上昇が少し)スリガラス影をしっかり画像にすることを目的にしています。(要精査となる10mm以上の病変も画像にできます。)
ちなみにスリガラス影は、GGO(ground-glass opacity)と呼ばれることも多いです。
このスリガラス影が観察された場合、さらに画像を再構成することが多いです。肺野全域ではなく、単独の病変を想定しまいます。
HRCTや拡大再構成と呼ばれるものです。
HRCTとは、高分解能CT(high resolution CT)のことです。
国家試験の過去問題でそれっぽいのがありましたので、挿入しておきます。

HRCTの特徴は、次の通りです。
- 高周波関数を使用します。
再構成に使用する関数は、高周波関数を用います。
高周波すぎると、血管などの周囲に黒い帯状のものが見られることがあります。これをアンダーシュートと言います。
- FOVを小さくし、画像を拡大します。
拡大再構成とは、その名の通り病変を拡大して画像にすることです。画像を拡大するにはFOVを変更します。可能な限り拡大するのではなく、ある程度のFOVで再構成します。
ではある程度とはどれくらいでしょうか?
これは使用している装置にもよりますが、220mm程度が推奨されています。これ以上拡大しても、分解能の向上は得られません。
このFOVサイズを求めることもできますが、ピクセルサイズ、使用している関数のMTF、サンプリング定理などが関わってきます。
興味ない方は、飛ばしてください。
拡大再構成するFOVのサイズが妥当か確認するために
マトリックス数は、512×512であることから、ピクセルサイズを求めます。
ピクセルサイズ = 検討しているFOV / 512
ピクセルサイズより、周波数を求めます。
周波数=1 / 2 × ピクセルサイズ [cycle/mm]
この周波数が、限界の解像周波数になります。求めた限界周波数と使用している関数のMTFを比較し、10%MTF周囲で一致しているか否かで妥当かを判断することができます。
10%MTF = 視覚で識別可能な最小解像度
拡大再構成する最適なFOVを求めるに
再構成に使用している高周波関数のMTFグラフを用意します。そのグラフから10%MTFとなる周波数を求めます。
10%MTFの周波数を、サンプリング定理に代入します。
サンプリング定理
⊿X ≦ 1/(2×Umax)
Umax:最高周波数、10%MTFで求めた周波数、⊿X:サンプリング間隔
求めた⊿X×512=最適なFOVサイズになります。
覚えて頂きたいことは、
拡大再構成のFOVを150mmとか100mmに設定しないでください
ということです。
220mm以上に拡大しても、解像度の向上は見られません。
- スライス厚を小さくします。
再構成する際のスライス厚は、1mm以下が推奨されています。
スライス厚に影響しそうな要因で、ビームピッチが挙げられます。
しかしビームピッチの変化に対し、実効スライス厚の変化は小さいので問題ないとされます。その代わり、ビームピッチが大きいとウィンドミルアーチファクトの影響が大きくなるため注意が必要です。
腺癌
スリガラス影が観察された場合、肺腺癌を疑うことがあります。
腺癌の特徴は次の通りです。
- 肺野の末梢に好発しやすい
- 血行性に骨や脳に転移しやすい
- 女性の肺癌の70%を占めます
- 喫煙との関連性はありますが、非喫煙者の発症も多く見られます。
- 初期は無症状のことが多く、健診で発見されることも多いです。
CTで末梢型腺癌の分類で使用されるものに、野口分類というものがあります。20mm以下の末梢型腺癌を病理的に分類し、増殖形態や性状から6種類に分類したものです。
野口分類
含気型(スリガラス影)
- A腫瘍内に線維化巣な
- B腫瘍内に肺胞虚脱型の線維化巣を認める
- C腫瘍内に繊維芽細胞の増生巣を認める
充実型
- D充実破壊性に増殖する低分化腺癌
- E管状腺癌
- F肺胞上皮非置換性に増殖する乳頭腺癌
詳細な分類は覚えなくても良いと思いますが、
- スリガラス影 = 腺癌
- 充実性腫瘤 ≠ 腺癌
ではないということが重要です。
まとめ
胸部CTは、CTの特徴を活かしやすいです。
高コントラスト・高空間分解能
ただし呼吸や心拍動の影響を受けやすいです。
この特徴を活かし、小さい・淡いスリガラス陰影も検出できます
スリガラス陰影を観察した場合、画像再構成を行うことも多い
HRCTでは、次のように再構成することが望ましいとされています。
- 高周波関数を用い、
- FOV = 220mm程度
- スライス厚は1mm以下
野口分類にもあるように、スリガラス陰影だけが腺癌ではありません。