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ケミカルシフトについて

MRI関連で、ケミカルシフトという単語は一度は聞いたことがあると思います。

アーチファクトに分類されますが、ケミカルシフトはこの記事で書きたいと思います。

Contents

ケミカルシフト

ケミカルシフトは、脂肪と水の境界に見られる低信号域のことです。

ケミカルシフトの発生

これは水と脂肪は共にプロトンから成り立っていますが、化学的性質の違いが原因となります。

  • 水 酸素と結合した水素原子で構成されています。
  • 脂肪 炭素と結合した水素原子で構成されています。

この違いにより、脂肪の共鳴周波数は、水よりも低くなります。

では、どれくらい低いか。これもまた良く聞く3,5[ppm]です。

これを周波数に換算すると、共鳴周波数のズレとなります。

3,5[ppm]から、共鳴周波数のズレを求めるときには静磁場強度が関連します。

換算するための式は、次のようになります。

水と脂肪の共鳴周波数の差[Hz] = 3,5[ppm] × 42,56[MHz/T] × 静磁場強度[T]

計算すると、静磁場強度が1,5[T]では220[Hz]、3[T]では447[Hz]となります。

ちなみに[ppm]は、単位ではなく百万分率のことです。

分かりやすい[%]ですと、1[%]=1/100はOKだと思います。

同様に[ppm]は、1[ppm]=1/1,000,000となります。(100万分の1)

 

アーチファクトについて 2020/12/25追記

水と脂肪の組成で、ケミカルシフトが発生することは理解して頂けましたでしょうか?

次のステップは、どのくらい画像に影響するかを考えたいと思います。

ややこしいので、太字だけでもOKだと思います。

ちなみにケミカルアーチファクトは、基本的には周波数エンコード方向のみに画像がずれます。

ただし、EPIでは位相エンコード方向に出現します。

2020/12/25 追記しています。(青字部分)

計算式がややこしいので、青字でイメージがわけばOKと思います。

静磁場の影響

静磁場強度が大きいと、ケミカルシフトの影響も大きくなります。

1ピクセルあたりのバンド幅を、220[MHz]と仮定します。

この時、静磁場強度が1.5T、3Tの時で比較してみます。

【1.5T】ケミカルシフトが220[MHz]のため、画像では1ピクセル分のずれが生じます。

【3T】ケミカルシフトが447[MHz]のため、画像では約2ピクセル分のずれが生じます。

具体例を考えてみます。

BW=±8[kHz]、Nx=256[pixel]の時、静磁場強度が1,5[T]、3[T]で比較してみます。

  1. 1[pixel]当たりのBWを求めます。16000[Hz]/256[pixel]=62.5[Hz/pixel]
  2. 水と脂肪の共鳴周波数の差を求めます。3,5[ppm]×42,58[MHz/T]×静磁場強度[T]であるから、1,5Tの時は220[Hz]、3Tの時は440[Hz]となります。
  3. pixelの差を求めます。

220[Hz]/62.5[Hz/pixel] = 3,5[pixel]

440[Hz]/62.5[Hz/pixel] = 7.0[pixel]

よって、静磁場強度が大きいと、ケミカルシフトの影響も大きくなります。

BW(バンド幅)の影響

バンド幅が小さいと、ケミカルシフトは大きくなります。

1.5Tの時、ケミカルシフトが220[MHz]です。

1ピクセルあたりのバンド幅を、220、440[MHz]と仮定し比較してみます。

【220MHz】画像では1ピクセル分のずれが生じます。

【440MHz】画像では約1/2ピクセル分のずれが生じます。

ここでも具体例を考えてみます。

静磁場強度 1,5[T]、Nx=256[pixel]の時、 BW(バンド幅)が±8[kHz]、 ±16[kHz]で比較してみます。

  1. 1[pixel]当たりのBWを求めます。16[kHz]/256[pixel]=62.5[Hz/pixel]32[kHz]/256[pixel]=125[Hz/pixel]
  2. 水と脂肪の共鳴周波数の差を求めます。3,5[ppm]×42,58[MHz/T]×静磁場強度[T]であるから、1,5Tの時は220[Hz]となります。
  3. pixelの差を求めます。220[Hz]/62.5[Hz/pixel] = 3,5[pixel]220[Hz]/125[Hz/pixel] = 1.8[pixel]

よって、バンド幅が小さいと、ケミカルシフトは大きくなります。

周波数エンコード数

周波数エンコード数が大きい時、ケミカルシフトは大きくなります。

ここでは具体例を割愛しますが、上の2つと同様です。

 

アーチファクトの対策法

よりケミカルシフトがアーチファクトとなる影響を減らすということで次の対策が考えられます。

  • 静磁場強度を低くする
  • 受信BWを大きくする
  • 周波数エンコードステップ数を小さくします
  • FOVを小さくします

 

第2のケミカルシフト

水と脂肪は化学的な性質で共鳴周波数が異なることは、ケミカルシフトで記載しました。

これは水と脂肪のそれぞれのプロトンが歳差運動をする速度が異なるということになります。

ある時間では追いつき、ある時間では正反対にいるようなイメージです。

  • 追いついている時を、in phaseと言います。この時、信号は加算されます。
  • 正反対にいる時を、out of phaseもしくはopposed phaseと言います。この時信号は、打ち消し合います。

この位相差によって生じるアーチファクトを第2のケミカルシフト、もしくは化学的ミスレジストレーションなどと言います。

脂肪と水が混在している場所(例えば腎とか)では、リング状の低信号域が見られることがあります。

位相差によって生じるアーチファクトなので、位相方向のみ出現します。

またGRE法のみで発生します。

アーチファクトの対策法

アーチファクトとなる影響を減らすということで次の対策が考えられます。

  • SE法を使用する。
    180°パルスが、水と脂肪の共鳴周波数の違いも補正してくれます。
  • 脂肪と水がin phaseとなるTEを選択する。
    水と脂肪がin phase、out of phaseになる時間は静磁場強度により決まります。なのでin phaseとなるTEを選択します。

1,5[T]の時、2,2[msec] out of phase、4,5[msec] in phase

3,0[T] の時、1,1[msec] out of phase、2,3[msec] in phase